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  • 2022年04月08日健康栄養

    タンパク質と病気(心血管障害、糖尿病、肥満)との関連性について

    2018年12月3日

    タンパク質

    執筆者:天野方一(医師)

    先週のコラムでは、タンパク質を摂ることの大切さ https://www.kingagaricus.com/post-7098/ をご紹介しました。

     

    タンパク質の摂取と各種疾患の関連についてはたくさんの研究がなされてきていますが、今回のコラムでは下記3つをご紹介します。

     

    1.心血管疾患との関連

    2012年に発表された約12万人を対象とした研究によると、1日3オンス(約85g)の精製肉や赤身肉*ではないタンパク質(魚、ナッツなどの豆類など)を摂取すると、心血管疾患のリスクは13%減少しました。一方、1日に1.5オンス(約42.5g)の精製肉や赤身肉の摂取 (ホットドック1個の量に相当)では、心血管疾患のリスクが20%も増加しました。つまり赤身肉の摂取は心血管疾患の心血管リスク上昇と強く関連していたこともわかりました。

     

    *精製肉や赤身肉に関するWHO(世界保健機構)の定義

    赤身肉:牛肉、豚肉や羊の肉など。

    精製された肉:ホットドック、ソーセージ、ハム、ベーコンなど。
    続いて、先週もご紹介した約8万2千人の女性を対象とした研究からは、低糖質と合わせて脂質の摂取の影響も明らかになりました。低糖質食を摂取した人は、高糖質食を摂取した人よりも、心疾患(心筋梗塞や狭心症)のリスクが30%減りました。一方、低糖質食を摂取した人でも、同時に動物性のタンパク質や脂質を多く摂取していた場合は、同様のリスク低減は認められませんでした。つまり、糖質の摂取を減らし、その代わりに植物性由来のタンパク質を多く摂ると良いことがわかったのです。

     

    2.糖尿病との関連

    2011年に発表された約37,000人を対象とした研究では、精製された赤身肉を多く摂取した人は、あまり食べない人と比較して糖尿病発症リスクが高まることがわかりました。具体的には、1日に赤身肉または精製された肉を多く摂取した人は、糖尿病の発症リスクが12~32%も上昇したのです。一方、全粒穀物からタンパク質を多く摂取した人は、糖尿病の発症リスクが16~35%も低下する結果となりました

     

    3.肥満との関連

    約12万人を20年間追跡した研究によると、赤身肉や精製された肉を多く摂取した人は体重が増加し、反対に植物性のタンパク質を多く含むナッツを多く摂取した人は体重が減少したことが認められました

     

    タンパク質の摂りすぎについて

    健康な人についてはタンパク質を過剰摂取しても影響がない.

     

     これまでの研究では、タンパク質の過剰摂取は体によくなく、特に腎機能を悪化させると考えられてきました。そして、本稿でもタンパク質の過剰摂取は疾患のリスクになるよということをお伝えしました。しかし、最新の研究結果では、少なくとも腎機能が正常に働いている健康な人に限っては、過剰摂取しても腎機能の低下に影響しないことがわかったのです。

     

    2018年に発表された研究では、1975年から2016年に発表された28件の論文のデータを解析して、低/普通たんぱく食と高たんぱく食が健常人の糸球体濾過量(腎臓機能の指標)に与える影響を調べました。1,300人以上の対象者には、健常人・肥満・2型糖尿病・高血圧患者なども含まれていましたが、慢性腎疾患の患者はいませんでした。研究の結果、高タンパク質の摂取は、腎機能の変化に影響しないことがわかり、慢性腎疾患のない健康な人はタンパク質の過剰摂取を厳しく制限する必要はないのではないかという新しい見解が生まれました

     

    ※この研究によると、高タンパク質の1日の摂取推奨量は、体重1kgあたり1.5 g以上、またはエネルギー摂取の20%以上がタンパク質、または100g以上の摂取と定義されています。

     

    まとめ

    1.現代人は意識的にタンパク質を多く摂取する必要がある

     

    2.赤身肉や精製された肉ではなく、全粒穀物や大豆・ナッツや魚などからタンパク質を摂取した方が良い

     

    3.腎機能が正常な人は、タンパク質の過剰摂取によるデメリットが起こる可能性は低い

     

    執筆者:天野方一

    方一先生

    2010年に埼玉医科大学卒業後、都内の大学付属病院で初期研修を終了し、腎臓病学や高血圧学の臨床や研究に従事し、抗加齢医学専門医や腎臓内科専門医等の資格を取得。

     

    予防医学やアンチエイジングの重要性を感じ、2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、食生活や生活習慣等など日常生活を改善することで、身体だけでなく心もハッピーに」をモットーに、予防医学やアンチエイジングに関する研究を行っている。

     

    2018年秋からハーバード大学公衆衛生大学院に留学し、最先端のアンチエイジング及び、?The relationship between health and happiness(健康と幸福の関係性)」?について研究。

     

    資格:抗加齢医学専門医、腎臓内科専門医、内科学会認定医、日本医師会認定産業医

    公衆衛生修士号(Master of Public Health、MPH

    アンチエイジングに関する最新情報を発信中!

    http://activehealthlab.tokyo/

     

    参考文献

    1.Halton TL, Willett WC, Liu S, et al. Low-carbohydrate-diet score and the risk of coronary heart disease in women. N Engl J Med. 2006;355:1991-2002.

     

    2.Halton TL, Liu S, Manson JE, Hu FB. Low-carbohydrate-diet score and risk of type 2 diabetes in women. Am J Clin Nutr. 2008;87:339-46.

     

    3.1947~1993年:国民栄養の現状, 1994~2002年:国民栄養調査, 2003年以降:国民健康・栄養調査(厚生省/厚生労働省)

    (http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html)

     

    4.Pan A, Sun Q, Bernstein AM, Schulze MB, Manson JE, Stampfer MJ, Willett WC, Hu FB. Red meat consumption and mortality: results from 2 prospective cohort studies. Archives of internal medicine. 2012 Apr 9;172(7):555-63

     

    5.Halton TL, Willett WC, Liu S, Manson JE, Albert CM, Rexrode K, Hu FB. Low-carbohydrate-diet score and the risk of coronary heart disease in women. New England Journal of Medicine. 2006 Nov 9;355(19):1991-2002.

     

    6.Pan A, Sun Q, Bernstein AM, Schulze MB, Manson JE, Stampfer MJ, Willett WC, Hu FB. Red meat consumption and mortality: results from 2 prospective cohort studies. Archives of internal medicine. 2012 Apr 9;172(7):555-63.

     

    7.Mozaffarian D, Hao T, Rimm EB, Willett WC, Hu FB. Changes in diet and lifestyle and long-term weight gain in women and men. New England Journal of Medicine. 2011 Jun 23;364(25):2392-404.

     

    8.Devries MC, Sithamparapillai A, Brimble KS, Banfield L, Morton RW, Phillips SM2.Changes in Kidney Function Do Not Differ between Healthy Adults Consuming Higher- Compared with Lower- or Normal-Protein Diets: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Nutr. 2018 Nov 1;148(11):1760-1775.

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