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  • 2022年04月08日健康栄養

    糖質制限・炭水化物制限は体にいいの?悪いの?【医師執筆コラム】

    2018年11月5日

    炭水化物

    執筆者:天野方一(医師)

    最近、3ヵ月で体形が別人のように変わるダイエットジムの影響か、お米やパン、ラーメン、パスタなど控える糖質制限、炭水化物制限を行っている人が増えていますよね。

     

    実際には、病気の発症や寿命に関する影響はどうなのでしょうか?

     

    これまでの研究で、

    減量・生活習慣病のリスク低減に効果あり

    しかし、長生きするにはある程度の糖質摂取が必要

    といったことが分かってきています。

     

    今回のコラムでは、裏付けとなる最新の研究報告をご紹介していきます。

     

    糖質制限・炭水化物制限食と減量との関係性

    ?低炭水化物食と体重の関係

    低炭水化物食*を食べた過体重および肥満者(BMI≧25)に関する複数の研究をまとめ、再度解析した報告があります。

     

    *今回の研究では、低炭水化物食とは、食事全体に対する炭水化物の割合が40%以下と定義されています。

     

    解析結果

    【背景】

    参加者の年齢の中央値は45.7歳

    体重の中央値は94.1kg (身長167㎝前後)

    BMIの中央値は33.7

    低炭水化物食*の摂取を行った期間の24週

     

    【結果】

    6ヵ月時に中央値で8.73kg(95%確信区間:7.27~10.20kg)

    12ヵ月時には7.25kg(同:5.33~9.25kg)の減量が達成されました1

     

    *BMI(Body Mass Index)は肥満度を示す指標です。

    BMI=体重kg÷(身長m×身長m)

    例:体重50㎏、身長160cm

    BMI=50÷(1.6×1.6)=19.53

     

    BMIが22(身長160㎝の場合は、約56㎏)の時に最も病気になりにくくなり、25(160㎝の場合64㎏)以上が肥満とされます。

     

    元データからの抜粋のため統計的な数値が入っていますが

    単純に、

    45.7歳、体重が94.1㎏(身長167㎝)の人が6ヵ月間、炭水化物の少ない食事を摂ったところ、6ヵ月後8.73㎏減量、12か月後に7.25㎏減量できた

    とイメージして下さい。

     

    低脂肪食、地中海食、低炭水化物食と体重の関係

    別の研究では、中等度肥満の322人(平均年齢52歳、平均BMI31*、男性86%) を、「低脂肪食」群、植物性脂肪が多く含まれている低カロリーの「地中海食」群、「低炭水化物食」群の3群に分けて、2年間追跡しました。

     

    その結果、減量効果は「低脂肪食」群では3.3kg、「地中海食」群は4.6kgだったのに対して、「低炭水化物食」群は5.5kgであり、「低炭水化物食」群は「低脂肪食」群と比較して有意に体重が減少しました

     

    *BMI31の例 身長170㎝ 体重90㎏

     

    軽い糖質制限食

    また、極端な糖質制限ではなく、1日120g以下の糖質制限*(おにぎり4個、食パン4枚程度)でも減量できるとの報告が多数あります。なお、摂取する糖質が1日120g以下になると、脳や筋肉で、脂肪が分解されてできるケトン体が使われ始めるといわれています。

     

    つまり、摂取する糖質を制限することで、不足したエネルギーを補うために脂肪の分解を促し減量につながります。

    ?

    *1日120gの糖質=おにぎりだけで計算すると4個、食パンだけで4枚に相当します。

    ?

    心疾患と2型糖尿病の発症リスクの減少

    82,802人の女性を対象とした観察研究からは、低糖質と合わせて脂質の摂取の影響もみてとれます。低糖質食(糖質の割合が低い分、野菜性たんぱく質や脂質を多く含みます)を摂取した人は、高糖質食(低脂質)を摂取した人よりも、心疾患(心筋梗塞や狭心症)のリスクが30%、2型糖尿病のリスクが20%減ったことが認められました。

     

    しかし、低糖質食を摂取した人でも、同時に動物性の脂質を多く摂取していた場合は、同様のリスク低減は認められませんでした3,4。(すなわち、せっかく低糖質の食事にしても、動物性の脂肪を多く摂っていると、心疾患リスクは下がらないといった結果になりました。)

     

    血圧低下やLDLコレステロールの減少

    軽度の高血圧を患っている164名についての調査では、6週間、低糖質食(糖質をたんぱく質などに置き換えたもの)を摂取してもらった結果、血圧やLDLコレステロールが下がったことが認められました5

     

    上記の研究報告は、比較的短期間(6週間~2年間)のもので、低糖質・低炭水化物食が特定の良い結果をもたらすことが分かります。それに対し、長期的な視点、つまり死亡率や寿命といった観点では効果的なのでしょうか?

     

    次に紹介する研究から、長生きするためにはある程度の糖質摂取が必要なことがうかがえます。

    ?

    死亡リスクや寿命との関連

    米国の成人15,428人(45~65歳)の、炭水化物の摂取状況と死亡率との関連を調べたところ(観察期間の中央値は25年間)、最も死亡リスクが低かったのも、最も寿命が長かったのも、摂取エネルギーに占める炭水化物の割合が50~55%の人々でした。

     

    彼らの寿命は、炭水化物の割合が30%未満だった人々よりも4年長く、65%以上の人々よりも1年長いといった結果でした。極端な糖質・炭水化物制限は、寿命を短くするかもしれません。

     

    また、炭水化物制限をした場合、牛・羊・豚の肉やチーズなどの動物性たんぱく質と脂肪の摂取量を増やすと早期死亡リスクは高まり、野菜や豆類、ナッツなど植物性たんぱく質と脂肪の摂取量を増やすと早期死亡リスクが低下することも示されました6

     

    次週(11月12日)のコラムでは

    そもそも糖質や炭水化物を制限すると、なぜ減量や生活習慣病のリスク低減につながるのか?

    普段の生活に糖質・炭水化物制限食を取り入れる5つのポイント?

    についてご紹介します。

     

    執筆者:天野方一

    方一先生

    2010年に埼玉医科大学卒業後、都内の大学付属病院で初期研修を終了し、腎臓病学や高血圧学の臨床や研究に従事し、抗加齢医学専門医や腎臓内科専門医等の資格を取得。

     

    予防医学やアンチエイジングの重要性を感じ、2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、食生活や生活習慣等など日常生活を改善することで、身体だけでなく心もハッピーに」をモットーに、予防医学やアンチエイジングに関する研究を行っている。

     

    2018年秋からハーバード大学公衆衛生大学院に留学し、最先端のアンチエイジング及び、?The relationship between health and happiness(健康と幸福の関係性)」?について研究予定。

     

    資格:抗加齢医学専門医、腎臓内科専門医、内科学会認定医、日本医師会認定産業医

    公衆衛生修士号(Master of Public Health、MPH

     

    アンチエイジングに関する最新情報を発信中!

    http://activehealthlab.tokyo/

     

    参考文献

    1. Johnston BC, Kanters S, Bandayrel K, et al.Comparison of weight loss among named diet programs in overweight and obese adults: a meta-analysis. JAMA. 2014 Sep 3;312(9);923-33.
    2. Shai I, Schwarzfuchs D, Henkin Y,et al. Weight loss with a low-carbohydrate, Mediterranean, or low-fat diet. N Engl J Med. 2008 Jul 17;359(3):229-41.
    3. Halton TL, Willett WC, Liu S, et al. Low-carbohydrate-diet score and the risk of coronary heart disease in women. N Engl J Med. 2006;355:1991-2002.
    4. Halton TL, Liu S, Manson JE, Hu FB. Low-carbohydrate-diet score and risk of type 2 diabetes in women. Am J Clin Nutr. 2008;87:339-46.
    5. Appel LJ, Sacks FM, Carey VJ, et al. Effects of protein, monounsaturated fat, and carbohydrate intake on blood pressure and serum lipids: results of the OmniHeart randomized trial. JAMA. 2005;294:2455-64.
    6. Sara B Seidelmann, Brian Claggett, Susan Cheng, Mir Henglin, Amil Shah, Lyn M Steffen, Aaron R Folsom, Eric B Rimm, Walter C Willett, Scott D Solomon. Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis. The Lancet. Public health. 2018 Sep;3(9);e419-e428.
    7. de Munter JS, Hu FB, Spiegelman D, Franz M, van Dam RM. Whole grain, bran, and germ intake and risk of type 2 diabetes: a prospective cohort study and systematic review. PLoS Med. 2007;4:e261.
    8. Beulens JW, de Bruijne LM, Stolk RP, et al. High dietary glycemic load and glycemic index increase risk of cardiovascular disease among middle-aged women: a population-based follow-up study. J Am Coll Cardiol. 2007;50:14-21.
    9. Anderson JW, Randles KM, Kendall CW, Jenkins DJ. Carbohydrate and fiber recommendations for individuals with diabetes: a quantitative assessment and meta-analysis of the evidence. J Am Coll Nutr. 2004;23:5-17.
    10. Higginbotham S, Zhang ZF, Lee IM, et al. Dietary glycemic load and risk of colorectal cancer in the Women’s Health Study. J Natl Cancer Inst. 2004;96:229-33.
    11. Buyken, AE, Goletzke, J, Joslowski, G, Felbick, A, Cheng, G, Herder, C, Brand-Miller, JC. Association between carbohydrate quality and inflammatory markers: systematic review of observational and interventional studies. The American Journal of Clinical Nutrition Am J Clin Nutr. 99(4): 2014;813-33.
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