シニア世代は太っている方がいい?サルコペニアについて【医師執筆コラム】

2018年6月18日

高齢者

執筆者:天野方一先生

今月から、ナチュラル通信(KAコラム)の執筆者として、抗加齢医学専門医の天野方一先生に加わって頂きました。先生は、この秋からはアメリカ、ハーバード大学に留学予定で、今後は日本国内はもちろん海外の健康に関する最新情報をご紹介頂きます。

天野先生

(日本抗加齢医学会総会にて 左:弊社代表 元井章智  右:天野方一先生)

まず、第1回目のコラムは「サルコペニア」について、今週来週と2週に分けてご紹介頂きます。

サルコペニアとは??!

歳を取ると筋肉が萎縮し、体重が減り、力がなくなる場合があります。この状態は「サルコペニア」と呼ばれています。更に筋肉の状態のみならず、活動量が減り、疲れやすいなどの症状を合併すると、「フレイル」という状態になります。

サルコペニアは、老化に伴うタンパク質の吸収能力の低下、慢性炎症(*1)や酸化ストレス(*2)の上昇、動脈硬化に伴う筋肉内の血流低下、更にビタミンDの作用低下(*3)などが原因で起こると言われており、転倒などの身体活動の低下、脳卒中や心疾患などの危険因子であることが、多くの研究で明らかになっています。

近年「メタボリックシンドローム」という言葉が急速に広まり太っていることがさまざまな疾患の危険因子になることは知られてきていますが、高齢者はむしろ太っていることより痩せていることの方が健康に対して悪影響を及ぼすことを知っておいてください!!

(*1)慢性炎症とは

ケガや病気になった時に突然生じる「急性炎症」に対して、明らかな症状がないにも関わらず、体内で静かに炎症が起きていく炎症を「慢性炎症」といいます。慢性炎症は動脈硬化や癌の新たな危険因子の一つとして注目されています。

(*2)酸化ストレスとは

酸化反応により引き起こされる生体にとって有害な作用のことです。酸化ストレスがたまる原因には、加齢、虚血や心理的/肉体的ストレス、紫外線、大気汚染、タバコ、酸化された食べものなどの摂取などによると言われています。

(*3)高齢になってビタミンDの作用が低下する理由

ビタミンDは脂溶性ビタミンの1種で小腸から吸収され、また皮膚で紫外線より生合成され体内に入ってきます。体内に吸収されたビタミンDは肝臓や腎臓で合成され、活性化ビタミンDとなり機能を発揮します。

高齢になると、ビタミンDの摂取量低下、日光に暴露される時間の減少、更には肝臓や腎臓の機能の低下によりビタミンD不足や活性低下になります。

高齢者では痩せている人が糖尿病になりやすい??!

糖尿病は、一般的に太っている人がなりやすいと言われています。しかし、筋肉量が減っていることも糖尿病の危険因子であることが最近の研究で分かってきています。

近年では、BMIが18.5未満の「痩せ型」の女性が国際的に増加しています。日本人においても、女性の8人に1人が「痩せ」と判定されています。

低体重の30人を含む43人を対象に糖負荷検査をしたところ、痩せていて筋肉量が少ない人は血糖値が下がらず、高血糖の状態が長く続くことが確認されました。食後の血中の糖質はインスリンの作用により筋肉や肝臓に吸収されるのが一般的ですが、痩せて筋肉量が少ない人は食後に十分な量のブドウ糖を筋肉に取り込めず、高血糖状態を起こしやすくなると考えらてれています1

サルコペニア/フレイルは高齢者の手術後の病状の見通しに影響する

アメリカのハーバード大学は、サルコペニア/フレイル状態の高齢者は心臓疾患の手術(冠動脈バイパス手術と開胸心臓弁置換術)後の予後が悪いという結果を発表しました。

約1万9000人(62歳から79歳)を対象にした、6分間の歩行試験の成績が悪い人は良い人に比べて死亡率のリスクが約3.6倍、介護者に全面的に依存していた人は日常生活が自立していた人に比べて、死亡率のリスクは約2.4倍であることが分かりました2

このような背景もあり、筋肉トレーニングで有名なRIZAP株式会社が東京大学と共同で、手術前に筋肉量を維持することが手術後の予後にどう影響を及ぼすかを調べる臨床試験(運動・栄養介入による胃癌周術期のサルコペニア予防効果に関するランダム化比較試験)を行っています3

 

*痩せているのに太っている「サルコペニア肥満」とは?!

サルコペニア

サルコペニア肥満とは肥満の高齢者が加齢に伴って筋肉量だけが減少(脂肪の量は変わらないか増加する)し、肥満にサルコペニアが合併した状態のことをいいます。サルコペニア肥満の状態では、肥満とサルコペニアとの間に悪循環が生まれ、糖尿病などの代謝性疾患や心血管系疾患の発症や悪化を加速させていきます。

サルコペニア肥満の高齢者は心血管系疾患の発症リスクが正常者と比較し、男性では約2.5倍、女性では約1.9倍になります4。また35,287人を対象とした研究では、総死亡のリスクも約1.2倍でした5

食生活の欧米化により、日本においても今後ますます肥満人口が増加することが予想され、サルコペニア肥満は健康寿命維持のための大きなキーワードになるでしょう。

来週(6月25日)はサルコペニアの予防および改善法をご紹介いたします。

参考文献

  1. Characteristics of Glucose Metabolism in Underweight Japanese Women. J Endocr Soc. 2018; 2: 279-289.
  2. Preoperative Frailty Assessment and Outcomes at 6 Months or Later in Older Adults Undergoing Cardiac Surgical Procedures: A Systematic Review. Ann Intern Med. 2016; 165: 650-660
  3. https://www.rizap.jp/images/pdf/0/681/G1/170517_tokyodaigakusyakairenkeikouza.pdf(2018年6月9日時点で確認可)
  4. Relationship between sarcopenic obesity and cardiovascular disease risk as estimated by the Framingham risk score. J Korean Med Sci. 2015; 30: 264-271
  5. Association of sarcopenic obesity with the risk of all-cause mortality: A meta-analysis of prospective cohort studies. Geriatr Gerontol Int. 2016; 16: 155-166

天野方一先生のご紹介

2010年に埼玉医科大学卒業後、都内の大学付属病院で初期研修を終了し、腎臓病学や高血圧学の臨床や研究に従事し、抗加齢医学専門医や腎臓内科専門医等の資格を取得。

予防医学やアンチエイジングの重要性を感じ、2016年より帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学し、食生活や生活習慣等など日常生活を改善することで、身体だけでなく心もハッピーに」をモットーに、予防医学やアンチエイジングに関する研究を行っている。

2018年秋からハーバード大学公衆衛生大学院に留学し、最先端のアンチエイジング及び、 The relationship between health and happiness(健康と幸福の関係性)」 について研究予定。

資格:抗加齢医学専門医、腎臓内科専門医、内科学会認定医、日本医師会認定産業医

公衆衛生修士号(Master of Public Health、MPH